防災キャンプ連載コラム/火をおこす力が未来を変える 〜マッチがない夜を生き抜く〜
- akiyuki yamasaki
- 5月7日
- 読了時間: 5分
なぜ「火起こし」が必要なのか?
2024年の能登半島地震や、毎年のように日本各地を襲う台風・豪雨災害では、多くの人が停電やライフラインの停止に直面しました。現代の暮らしは、電気・ガス・水道に大きく依存しており、それらが一瞬で失われると、普段の生活は簡単に崩壊します。
しかし、そんな状況でも「火を扱う技術」があれば、最低限の生活を支えることができます。火は、暖をとる、調理する、明かりを確保する、防虫・防獣対策になるなど、多くの面で人間の命を支えてくれる存在です。
「火起こし」は単なるサバイバル術ではありません。未来を生き抜くための“人間らしさを取り戻す技術”なのです。
突然、電気もガスも止まってしまった夜を想像してみてください。窓の外は真っ暗。室内の照明はもちろん、スマートフォンの明かりも、やがてバッテリーが尽きてしまう。寒さや空腹、そして不安――そんな中で、たった一つの火が、あなたと家族を守ってくれるとしたら、あなたはその火を、自分の手でおこせるでしょうか?
私たちは日々、便利で快適な暮らしを送っています。スイッチひとつで明かりがつき、ボタンひとつで食事が温まる時代。しかしその便利さは、自然災害や停電といった非常時には、一瞬で失われてしまいます。だからこそ今、見直されているのが「火をおこす力」です。これはキャンプやアウトドアで楽しむためだけの技術ではありません。火をおこし、火を育て、火を管理できる力は、いざというときの“生きる力”へと直結するのです。

火がもたらすのは単なる暖かさだけではありません。それは光であり、料理を可能にする熱であり、ときには心の安心感でもあります。たとえば災害でライフラインが止まったとき、焚き火があれば冷えた体を温めることができます。空腹のときには、温かい食事をつくる手段にもなる。そして真っ暗闇に包まれた夜には、炎の明かりが心を落ち着かせてくれるのです。
火を起こす難しさ
火をおこすためには、基本的なステップがあります。まず必要なのは、着火に使う材料。乾いたティッシュや麻ひもをほぐしたもの、杉の葉などが火種として役立ちます。これらはすぐに火がつきやすく、炎の第一歩を支えてくれる存在です。次に、その火を少しずつ大きくするために細い小枝を用意します。これは手で折れるくらいの太さが理想で、しっかり乾燥していることが大切です。そして、最後に太い薪をくべることで、火は長時間燃え続けるようになります。いきなり大きな薪に火をつけようとしても、うまく燃えません。火は、小さく育てていくものなのです。
着火の方法にもさまざまな種類があります。もっとも一般的なのはマッチやライターですが、災害時に備えるなら、ファイヤースターターをおすすめします。これは金属棒とストライカーを使って火花を飛ばし、火種に着火させる道具です。水に濡れても使え、長期間の保存も可能。アウトドアに慣れていない人には少し難しく感じるかもしれませんが、慣れればマッチがなくても火をおこせるようになります。キャンプに出かけた際には、ファイヤースターターで火をおこす練習をしてみるといいでしょう。災害時にそれが“命をつなぐ技術”になる日が来るかもしれません。

火をおこしたあとは、それをどう管理するかも重要なポイントです。たとえば、炎が小さすぎて調理に向かない場合は、空気をうまく送りながら細い枝を足して火力を強めます。逆に火が強すぎると感じたときは、薪を減らしたり、風を遮ったりして炎を調整します。また、薪の組み方にも工夫が必要で、空気の通り道を考えて「ティピー型」や「井桁型」に組むことで、効率よく燃える火をつくることができます。
こうした火の扱いの基本は、キャンプで体験してこそ身につくものです。実際に焚き火を囲みながら、どんな材料が火種として有効か、どれくらいの太さの枝がよく燃えるか、どんな組み方が一番長持ちするかといったことを、自分の手と目と感覚で学んでいくのです。そして、それは災害時の「生きる力」に直結します。
たとえば、停電時の寒い夜。小さな焚き火があれば、それだけで体を温め、凍えることを防ぐことができます。あるいは、火を使って簡単な食事を温めることもできるでしょう。空き缶を使ったロケットストーブや、簡易的なアルコールストーブがあれば、少ない燃料でお湯を沸かすこともできます。こうした道具やアイデアは、普段からキャンプを通じて知っておくことで、非常時に迷わず行動できるようになります。

人は誰でも暖かくて明るい場所に寄りたがる
また、火は明かりとしても機能します。避難所や仮設住宅で、夜間にまったく明かりがない状況では、キャンドルの小さな炎さえも、大きな安心感と安全をもたらします。炎が灯っているというだけで、人の心は不思議と落ち着くものなのです。
火をおこすという行為には、「人間らしさ」が宿っています。自然の中で、自分の手を動かし、少しずつ火を育てる過程は、私たちの本能に語りかけてくるものがあります。風の流れを読み、湿度や薪の状態を判断しながら、慎重に、でも確実に火を育てていく。そうした時間は、単なるサバイバル技術ではなく、心を豊かにし、自然とのつながりを取り戻す機会でもあるのです。
子どもと一緒に火をおこす体験をするのもとてもおすすめです。初めて自分の力で火をつけたときの喜びや達成感は、きっと一生の記憶に残るでしょう。そしてそれが、自信や好奇心、ひいては「生き抜く力」へと育っていくのです。
私たち人類は、火を手に入れたことで進化し、文明を築いてきました。今、その原点に立ち返り、もう一度「火を扱う力」を見直すことが、これからの不安定な時代を生き抜くために必要なのではないでしょうか。
火をおこす力が、あなたの未来を変えるかもしれません。マッチがない夜を、どう生き抜くか。その答えは、あなたの手の中にあります。

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