冬の連載テーマ「命を守る“冬の防災力”」第4回:雪と孤立と、どう向き合うか
- akiyuki yamasaki

- 12 分前
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―災害時「助けが来ない時間」は、日本中で起こりうる ―
はじめに|「少しの雪」で止まる国、日本
日本は、世界的に見ても珍しい国です。南北に長く、山が多く、海に囲まれ、冬になると全国各地で雪が降る可能性があります。
しかし私たちは、どこかで「雪は一部の地域の話」「都心では大丈夫」という感覚を持っていないでしょうか。
現実は逆です。日本は、少ない雪で都市機能が一気に脆くなる国です。
数センチの積雪で、
電車が止まり
道路が麻痺し
物流が滞り
人の移動が遮断される
このとき起きているのは、「雪害」ではありません。孤立の始まりです。

画像出展:読売新聞オンライン
▪️日本の地政学が生む「雪への脆弱性」
日本は、地形的に次の特徴を持っています。
山が多く、交通網が集中している
都市部ほど“効率化”が進み、余白がない
物流・医療・エネルギーが集中型
日常は「止まらない前提」で設計されている
つまり日本の都市は、雪が降らない前提で成り立っているのです。
そのため、雪が少量でも降ると、
通勤・通学が止まる
病院へ行けない
店に物が届かない
支援が遅れる
こうして都市は、あっという間に「孤立状態」に近づきます。
▪️ 孤立は「山の中」だけの話ではない
孤立という言葉を聞くと、山間部や離島を思い浮かべがちです。しかし実際には、
マンションの高層階
高架道路に囲まれた住宅地
電車が止まった駅周辺
大雪で動けなくなった都心部
これらも立派な「孤立空間」です。
都市の孤立は、人が多いからこそ、助け合いが見えにくいという特徴を持っています。
「誰かが助けてくれるはず」この思い込みが、行動を遅らせます。

▪️ 物流停止と救急遅延は同時に起こる
雪が降ると、最初に影響を受けるのは物流です。
コンビニやスーパーの商品が届かない
ガスボンベや灯油が手に入らない
医薬品が不足する
そして、同時に起きるのが救急・医療の遅延です。
救急車が渋滞にはまる
病院まで辿り着けない
医療スタッフが出勤できない
これは地方だけの問題ではなく、都市部でこそ深刻化しやすい現象です。
▪️「自助」だけでは都市の孤立は乗り越えられない
都市部では、
隣人の顔を知らない
助けを求めづらい
迷惑をかけたくない
こうした文化が根強くあります。
しかし雪による孤立状態では、自助(自分で備える)だけでは限界が来ます。
高齢者
子育て世帯
一人暮らし
持病のある人
こうした人たちが「見えない孤立」に陥りやすいのが、都市の特徴です。
▪️都市でこそ必要な「声かけ」という共助
共助とは、特別なことではありません。
エレベーターでの「大丈夫ですか?」
隣室への一言の声かけ
管理人や自治会への情報共有
玄関前の雪かき
雪の日のこうした行動は、都市の中に“人のつながり”を一時的に取り戻す行為です。
孤立を防ぐ最初の一歩は、顔を合わせ、言葉を交わすことです。

▪️防災キャンプが教えてくれる「孤立しない力」
防災キャンプの最大の価値は、知識や装備を増やすことではありません。
それは、「人は一人では生き延びられない」という現実を、安全な環境で体験できることにあります。
災害時の孤立は、物理的な問題だけではありません。本当に怖いのは、「心理的な孤立」です。
誰に頼っていいかわからない
迷惑をかけてはいけないと思ってしまう
困っていても声を出せない
防災キャンプは、こうした心理的な壁を、体験を通じて壊していきます。
①「困る」ことを共有する訓練
防災キャンプでは、あえて不便な環境をつくります。
暖房のない夜
限られた水
時間のかかる調理
思うように進まない作業
ここで参加者は、自然とこうした言葉を口にします。
「ちょっと手伝ってもらっていいですか?」「これ、一緒にやった方が早いですね」「大丈夫ですか?」
これらはすべて、孤立を防ぐための言葉です。
防災キャンプは、「助けを求めること」「助け合うこと」を恥ずかしい行為ではなく、自然な行動として体に覚えさせる場なのです。

②役割が自然に生まれる仕組み
火起こし、水の確保、テント設営、食事づくり。これらは、一人では成立しません。
火が得意な人
段取りができる人
子どもを見守る人
周囲を気にかける人
防災キャンプでは、肩書きや年齢に関係なく役割が生まれます。
これは災害時にそのまま起こることです。「この人に頼っていい」「自分はここを手伝える」
この感覚を事前に持っているかどうかで、孤立するか、つながるかが分かれます。
③「助ける側」「助けられる側」を行き来する経験
防災キャンプでは、誰もが一度は助けられ、誰もが一度は助けます。
最初は何もできなかった人が、後で誰かを支える
子どもが大人に教える場面もある
高齢者が知恵を共有する場面もある
これにより参加者は、「助けられていい」「頼っていい」
という感覚を自然に身につけます。
都市の孤立を深刻にしているのは、「迷惑をかけてはいけない」という思い込みです。
防災キャンプは、それを安全に壊す場でもあります。
④情報を「共有する」ことが安全につながると知る
災害時に最も危険なのは、情報を一人で抱え込むことです。
防災キャンプでは、
天候の変化
体調の異変
道具の不足
を必ず共有します。「寒くなってきた」「あの人、動きが鈍い」「水が足りないかも」
この“気づきを声に出す習慣”が、孤立を防ぎ、事故を未然に防ぎます。
⑤「孤立しない力」とは技術ではなく態度
私たちが伝えたいのは、ロープワークや火起こしだけではありません。
声をかける
相談する
一緒に考える
役割を引き受ける
これらはすべて態度(スタンス)です。
防災キャンプは、「助け合うことを当たり前にする文化」を体験する場なのです。
▪️まとめ|防災キャンプは「関係性の備え」
防災キャンプが教えてくれるのは、物資や技術以上に大切なもの。
それは、人と人との距離を縮める力です。
孤立しない力とは、「一人で何とかする力」ではなく、「一人にならない力」。
日本防災キャンプアウトドア協会は、この力を育てるために、防災キャンプを続けています。

次回予告(第5回)
「子どもに伝えたい『冬を生きる力』」― 雪遊びは、最高の防災教育 ―

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