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あの日の体験を覚えていてくれた。1年越しの再会に感じた、防災教育の本当の価値

3 時間前
読了時間: 8分

~長野県立木曽病院「病院祭」で防災キャンプワークショップを開催~

今年も長野県立木曽病院で開催された「病院祭」にて、防災キャンプワークショップを実施してきました。昨年に続き、今年で2回目の参加となります。


当日はあいにくの雨模様。

昨年と比べると来場者は少なかったものの、毎年恒例の病院祭を楽しみに訪れる地域の皆さんと、今年も「防災×キャンプ」を通じた交流の時間を過ごすことができました。


そして今回、改めて感じたことがあります。

防災教育の価値は、参加した人数だけでは測れない。

一人の心に残る体験が、その人の未来を変えるきっかけになるかもしれない。

そんなことを強く実感した一日となりました。


やっぱり一番人気は「火起こし体験」

今回のワークショップでは、キャンプやアウトドアの知識と技術を活用し、災害時にも役立つ様々な体験を用意しました。


メタルマッチを使って火起こし体験
メタルマッチを使って火起こし体験

その中でも、やっぱり一番人気だったのが「火起こし体験」です。

メタルマッチという道具を使い、火花を飛ばして火を起こす方法に挑戦してもらいました。

キャンプを経験したことのない親子も多く、初めて見る道具に興味津々。

大人も子どもも一緒になって、何度も挑戦する姿が見られました。


普段の生活では、スイッチを押せば火がつき、蛇口をひねれば水が出る。

しかし、災害によって当たり前の生活が失われたとき、私たちはどうするのでしょうか。

火を起こすという一つの技術にも、実は様々な可能性があります。

暖を取ること、食事を作ること、お湯を沸かすこと。

そして何より、自分の力で何かができたという経験は、いざというときの自信にもつながります。

もちろん、災害時に火を使うには、周囲の安全確認や火災・一酸化炭素中毒への注意が欠かせません。

大切なのは、道具の使い方だけでなく、状況に応じて安全に判断する力を身につけることで

す。


空き缶でご飯が炊ける!「できる」を体験する防災

火起こし体験の隣では、焚き火を使った「空き缶炊飯」の実演を行いました。

身近な空き缶を活用してご飯を炊き、実際に試食していただきました。

「思ったより美味しい!」

「こんなに簡単にできるんだ!」

「全然食べられる!」

そんな声が次々と聞こえてきました。

災害時の食事というと、非常食や備蓄食料を思い浮かべる方が多いかもしれません。

もちろん、食料を備蓄しておくことは大切です。


焚き火で空き缶炊飯
焚き火で空き缶炊飯

しかし、備えることだけが防災ではありません。

限られた道具や身近なものを活用し、今ある環境の中で工夫すること。

キャンプやアウトドアには、そんな「なんとかする力」を育む要素がたくさんあります。

知識として知っていることと、実際に自分の目で見て体験することは違います。

「こんな方法もあるんだ!」

その小さな発見が、災害時の選択肢を一つ増やすことにつながるのだと思います。


雨の日の焚き火が教えてくれたこと

今回、印象的だった光景がもう一つあります。

雨が降る中、焚き火をしていると、不思議と人が集まってくるのです。

炎を眺める人。

温かさを感じながら会話をする人。

何をするわけでもなく、ただ焚き火のそばに立ち寄る人。

そんな中、ある方がふと呟きました。

「災害時でも、焚き火って大事だなぁ」

この一言が、とても心に残りました。


焚き火には、暖を取る、調理をする、明かりを確保するといった実用的な役割があります。

しかし、それだけではないのかもしれません。

炎の温かさや揺らぎを感じながら、人が自然と集まり、言葉を交わす。

不安や緊張の続く避難生活の中で、安心できる時間や場所があることは、心の支えにもなるはずです。

特に寒い季節には、体を温めることと同じくらい、心の温かさも大切になるのではないでしょうか。

もちろん、災害時には火を使える場所や条件が限られます。

それでも、今回の雨の中での光景は、防災とは単に命を守るための技術だけではなく、人が人らしく生きるための環境を考えることでもあると教えてくれたように感じました。


キャンプ道具はフェーズフリー
キャンプ道具はフェーズフリー

テントと寝袋。楽しさの中にある避難生活への備え

会場にはテントも設置し、自由に中へ入っていただけるようにしました。

テントの中には簡易ベッドと寝袋を用意。

子どもたちは興味津々でテントに入り、寝袋に寝転んだり、ベッドに座ったり。

その表情はとても楽しそうでした。


キャンプをしたことがない方にとっては、テントの中に入ること自体が新鮮な体験です。

しかし、こうした体験は、避難生活を考えるきっかけにもなります。

床に直接寝ることと、簡易ベッドを使うことの違い。

寝袋で体を温める方法。

限られた空間でプライバシーを確保する工夫。

普段はキャンプを楽しむための道具が、災害時には生活を支える道具にもなる。

これこそが、私たちが伝えている「防災×キャンプ」の魅力の一つです。

楽しみながら備える。楽しんだ経験が、いつか自分や誰かの命を守る力になる。

そんな防災の形を、これからも伝えていきたいと思います。


「今年も、あのおじちゃん来るかな?」1年越しの再会

そして今回、私にとって忘れられない出来事がありました。

昨年の病院祭にも参加してくれた、お母さんと息子さんの親子が、今年も会場を訪れてくれたのです。

昨年、その男の子はメタルマッチを使った火起こし体験がよほど楽しかったようで、お誕生日プレゼントとしてメタルマッチを買ってもらったそうです。


そして今年。

「今年の病院祭にも、あのおじちゃん来るのかな?」

そんなことを思いながら、会場に来てくれたと聞きました。

私の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってきてくれました。

その瞬間、思わず涙が溢れそうになりました。


私にとっては、昨年お会いしたたくさんの来場者の中の一人だったかもしれません。

しかし、彼にとっては、あの日の火起こし体験が、1年経っても忘れられない思い出になっていたのです。

まだ小学2年生。

今年も火起こしを楽しみ、最後まで会場に残って、片付けまで手伝ってくれました。

本当に嬉しかった。


そして、この仕事を続けてきて良かったと、心から思えた瞬間でした。

私たちは日々、防災教育を通じて多くの方と出会います。

講座を開催し、技術を伝え、体験してもらう。

その一つひとつが、参加した方の心にどれだけ残っているのか、普段はなかなか知ることができません。


でも、今回の再会が教えてくれました。

たった一度の体験でも、子どもの心に深く残ることがある。

その体験が好奇心を育て、新しいことに挑戦するきっかけになる。

そして、いつか困難に直面したとき、「自分にもできることがある」と思える力につながるかもしれない。

防災教育とは、単に災害への備えを教えることではなく、未来を生き抜く力を育てることなのだと、改めて感じました。


病院祭だからこそ生まれる「防災のつながり」

今回の開催を通じて、もう一つ大切だと感じたことがあります。

それは、病院祭という場所で防災を伝える意義です。

病院は、地域の人々の命と健康を支える大切な存在です。


みんな真剣です…
みんな真剣です…

一方、災害が発生したとき、命を守り、その後の避難生活を支えるためには、医療だけでなく、福祉、教育、行政、地域住民、企業など、様々な立場の人々の協力が必要になります。


現在、私たちは「長野県防災リーダー育成プログラム」に取り組んでいます。

この事業では、

  • 日本防災キャンプアウトドア協会

  • 信州まちの減災ナースの会

  • 日本プラウドケア教育協会

が連携し、それぞれの専門性を活かした防災人材の育成を進めています。

アウトドアの知識や技術。

医療・看護の視点。

福祉やケアの視点。


それぞれが異なる専門性を持ちながら、目指しているものは共通しています。

それは、災害時に一人でも多くの命を守り、その後の暮らしを支えることです。

防災は、一つの団体や一人の専門家だけで完結するものではありません。

そして、防災に関わる人は、防災の専門家だけである必要もありません。

普段の仕事や暮らしの中にある知識、経験、技術が、災害時には誰かを支える力になります。


病院祭のように、地域の様々な人々が自然と集まる場所で、防災を楽しみながら体験してもらう。

そこから新しい関心や出会いが生まれ、地域のつながりが少しずつ広がっていく。

こうした活動も、地域防災力を育む大切な一歩なのだと思います。


小さな体験が、未来を生き抜く力になる

防災という言葉を聞くと、どうしても災害の怖さや被害の大きさに意識が向きがちです。

しかし、私たちが伝えたいのは、怖さだけではありません。

自然の中で楽しむこと。

初めての道具に触れること。

できなかったことができるようになること。

誰かと協力すること。

そして、自分の中にある可能性に気づくこと。

そうした経験の積み重ねが、いざというときに考え、判断し、行動する力につながっていくと信じています。


今回の病院祭は雨天となり、来場者数だけを見れば昨年より少ない開催となりました。

それでも、1年越しに会いに来てくれた男の子の笑顔を見たとき、改めて思いました。

大切なのは、何人に伝えたかだけではなく、一人ひとりの心に何を残せたか。


私たちの活動は、一つひとつを見れば小さなものかもしれません。

しかし、その小さな体験が、誰かの好奇心を刺激し、挑戦する勇気を生み、未来を生き抜く力につながっていく。

そう信じて、これからも「防災×キャンプ」「防災×アウトドア」を通じた活動を続けていきたいと思います。


最後になりましたが、今回も貴重な機会をいただいた長野県立木曽病院の皆様、雨の中ご来場いただいた皆様、そしてワークショップに参加してくださった皆様に心より感謝申し上げます。


そして、1年越しに会いに来てくれた小さな友人へ。

また来年も会えたら嬉しいな。

ありがとうございました。

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